ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「海辺のリア」小林政広

俳優生活65年の、生きる伝説。黒澤明をはじめ、成瀬巳喜男岡本喜八市川崑五社英雄といった錚々たる監督たちに愛された84歳の仲代達矢が、その一挙手一投足、台詞の一つひとつに、自らのすべてを、その人生を、人間の喜怒哀楽を、全身全霊で表現する。これは悲劇であり喜劇。まるで、シェイクスピアの演劇を観ているかのような、凄まじい映画だった。

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映画『海辺のリア』公式サイト

 

「ハートストーン」グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン

思春期。「自分が何者であるか」を気づかされ、もう二度と元通りには戻れない、なにか大切なものを喪失していく過程を、厳しく壮大な自然を背景に見事に描き切ったアイスランド映画。閉鎖的かつ殺伐とした漁村の中で、誰にも相談できず、孤独な魂を抱えながら、寄り添うように生きるティーンエイジャーたちがとても美しかった。そして、心揺さぶられるラスト。これぞ、希望の映画だ。

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映画『ハートストーン』 公式サイト

「i」西加奈子

年末年始は一気に読みたい本を読む。今年は、2016年の年末に買って、ずっと読めずに本棚にあったこの本を選んだ。そのとき、西さんが書きたかったこと、書かずにはいられなかった思いがどっと溢れ出ている文章に、言葉に、なんども胸が熱くなる。曖昧なもの、あやふやなもの、流動的なもの、柔らかなもの、多様なもの。それらを力強く、繰り返し肯定する、純真さとやさしさを、年の初めに心に留めたい。祝福。なんていい言葉だ。

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i 西加奈子 | ポプラ社

ベストテン2017

2017年もあと2日。今年観た映画(DVD)は昨年より少し増えて120本でした。今年も映画を観続けることができたこと。そのことがやっぱり幸せだなぁと感じる年の瀬です。

さて。年末恒例の、特に印象に残った映画は、

「オーバー・フェンス」山下敦弘
「走れ、絶望に追いつかれない速さで」中川龍太郎
「ラ・ラ・ランド」デイミアン・チャゼル
ハーフネルソン」ライアン・フレック
「たかが世界の終わり」グザヴィエ・ドラン
「わたしは、ダニエル・ブレイク」ケン・ローチ
「ムーンライト」バリー・ジェンキンス
「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」ジャン=マルク・ヴァレ
マンチェスター・バイ・ザ・シー」ケネス・ロナーガン
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」石井裕也

観た順番で上記の10本。いずれも魂が震える、素晴らしい作品でしたが、今年はなんといってもケン・ローチに尽きます。

小さき声に耳を傾ける。

かつて六本木にあったミニシアター『シネ・ヴィヴァン』の回顧展にて、初めて「ケス」を観たのが大学3年の夏。以来、「リフ・ラフ」、「レディバードレディバード」、「大地と自由」、「麦の穂をゆらす風」、「ルート・アイリッシュ」などなど、あげればきりがないほど、ケン・ローチに熱狂し、傾倒し、心酔してきましたが、彼が引退を撤回してまで撮りあげた「わたしは、ダニエル・ブレイク」には、その精神のすべてが表われていたように思います。

というわけで、年越しの準備が完了し、今から実家へと向かいます。今年も1年間、本当にありがとうございました。皆さんどうか良い年をお迎え下さい☆ 

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「20センチュリー・ウーマン」マイク・ミルズ

人は人に影響を与えながら、人は人に影響を受けながら、生きている。そこに性別や年齢は関係ない。まさしく今が旬の、エル・ファニングも、グレタ・ガーウィグも、共に素晴らしかったけれど、なんといっても圧巻は、忘れちゃいけない、オスカーとは無縁の大女優アネット・ベニング。彼女がいたからこそ、20センチュリー・ウーマン、この映画は「20世紀を生き抜いた女性たち」への賛歌となった。

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映画『20センチュリー・ウーマン』公式サイト