辺見庸という人の著作を読むと「読んではならぬものを読んでしまった」という感覚にいつも襲われる。なぜなら、そこには、多くの人たちが耳を塞ぎ、見て見ぬふりをしている、知られざる事実が、オブラートに包まれることなく、すべて露わになっているからだ。その賛否はおいておいて、この国が失ってしまった「言論の自由」が、そこに自らの尊厳をかけて存在している。
人を愛するということが必ずしもその人を幸せにするとは限らない。否、むしろ、人生を狂わせてしまうことのほうが多いのではないか。13歳にして愛を知ってしまったがゆえに、一生消えない心の傷を負った女性の果てのない葛藤。愛に彷徨するルーニー・マーラが哀しくて切ない。
様々な宗教をもった民族や、様々な思想をもった人々が、何千年もの昔から、争い、啀み合いながら生きてきたヨーロッパの、ほんとうの歴史を私たちは知らない。また、未だ明らかに存在する階級社会の中で、思いを飲み込みながら生きていかなければならない現実を、私たちは実感することさえできない。その意図的かつ緻密で巧妙な仕掛けに、日本人である私は、ただただ愕然とするだけだった。
映画製作、脚本執筆、海外旅行、インタビューを20年間禁じられる。母国から生きていく術を奪われた映画監督が、不屈の精神で、かつ、ユーモアを忘れず、人生の機微をいっぱいに盛り込んで作りあげた映画には、表現の自由と、それを守り抜こうとする並々ならぬ意志が漲っている。そこに意志さえあれば、どんな状況下であれ、人の心を揺さぶる映画は撮れるのだということをジャファル・パナヒは証明した。
たった独りでも生きられる。人間には、そんなとてつもない強さが備わっていること、また、小さくかよわい存在を、国を超えて支えようとする人たちがいることに心の底から感動する。もはや円熟期に入ったニコール・キッドマンは言うまでもなく、この映画がデビュー作となった5歳の天才俳優サニー・パワールが圧巻。その美しく力強いまなざしが忘れられない。