ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「幸せなひとりぼっち」ハンネス・ホルム

先立った最愛の妻を追いかけようと何度も自殺を図ろうとする偏屈で実直な主人公が、偶然引っ越してきたお隣さんによって、もう一度、生を見つめ直す小さな奇跡。どんな境遇の、どんな人間であれ、人を愛し、人に愛されるため、この世に生まれ、そして、今を生きている。そんなことを思い出させてくれる温かなスウェーデン映画。苦境を乗り越えてきた人生が、切なくて、愛おしくて、しみじみする。

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幸せなひとりぼっち | 2016年12月17日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

「皆さま、ごきげんよう」オタール・イオセリアーニ

原題の「冬の歌」は故郷グルジアの歌のタイトルで、その歌には「冬が来た。空は曇り、花はしおれる。それでも歌を歌ったっていいじゃないか」という歌詞があるとオタール・イオセリアーニ監督。人が人を糾弾し、抑えつけ、略奪し、いつまでも殺し合いをやめないどうしようもない人間社会を嘲笑しつつ、それでも、生きるって悪くないよと、不良ジイサンが、実に軽やかに、そして、ユーモアいっぱいに教えてくれる人間賛歌。そのセンス溢れる詩的なファンタジーにただただ酔いしれる。

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映画『皆さま、ごきげんよう』公式サイト

「どぶ」新藤兼人

新藤兼人による1954年の作品。黒沢明の「どん底」に匹敵する、戦後のルンペン街に暮らす人々の、貧しくもエネルギッシュな生活。それぞれの人物描写も素晴らしかったけど、この映画の見どころはなんといっても乙羽信子の演技と覚悟に尽きる。清純派から180度の転換。女優の開眼。終盤、娼婦となってお金を貢ぎ続ける知恵遅れの女の、優しさと切なさと無垢の愛に、胸がぎゅっと締めつけられた。

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「アラビアの女王 愛と宿命の日々」ヴェルナー・ヘルツォーク

これは「砂漠」を観る映画だ。あのヘルツォークによって、まざまざと見せつけられるのは、圧倒的なスケールの「映画にしか撮れない自然」があるということだ。そして、ニコール・キッドマン。自主制作のような作品から歴史超大作まで、その人が出演しているだけでどんな映画も観ようと思わせられる。彼女はそんな数少ない女優の一人だ。

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映画「アラビアの女王 愛と宿命の日々」公式サイト

「変態だ」安齋肇

最強コンビ降臨。「エロは大宇宙」「変態は王」など数々の名言を発してきた、キング・オブ・エロ、みうらじゅん大師匠の企画・原作を、あのソラミミスト安齋肇さんが撮った映画。これぞまさしくロックなポルノ。魂の解放と愛の物語。荒唐無稽なド変態への道を、ジャームッシュか! と思わせるほどスタイリッシュに撮っちゃうセンスはさすが。必見はエンドロール。これがちょっとゾクゾクするほどカッコイイのだ。えっと、ちなみに18禁です。

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映画「変態だ」公式サイト|12月10日(土)全国ロードショー