ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「変態だ」安齋肇

最強コンビ降臨。「エロは大宇宙」「変態は王」など数々の名言を発してきた、キング・オブ・エロ、みうらじゅん大師匠の企画・原作を、あのソラミミスト安齋肇さんが撮った映画。これぞまさしくロックなポルノ。魂の解放と愛の物語。荒唐無稽なド変態への道を、ジャームッシュか! と思わせるほどスタイリッシュに撮っちゃうセンスはさすが。必見はエンドロール。これがちょっとゾクゾクするほどカッコイイのだ。えっと、ちなみに18禁です。

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映画「変態だ」公式サイト|12月10日(土)全国ロードショー

「シークレット・オブ・モンスター」ブラディ・コーベット

ヒトラームッソリーニスターリン。20世紀の独裁者はどのようにして生まれたのか。サルトルの短編小説から着想を得たという不条理な世界。全編に漂う、何かが起こりそうな不穏な空気が、観るものを釘付けにして離さない。そして、あのルイス・ブニュエルを彷彿とさせるフェティシズムと宗教への複雑な視線。結末に向かうにつれて、すべてのピースがはめ込まれたように、その全貌が見えてくる、これは、映画的な、実に映画的な陶酔を誘う、怖ろしい作品だ。

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映画『シークレット・オブ・モンスター』公式サイト

 

 

 

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」ジェイ・ローチ

卒業論文のテーマは「赤狩り時代の映画作家」だった。裏切るか、亡命するか、堪えて闘うか。それら三択しか生き残る方法がなかった時代の中で、堪えて闘い続けた男こそ、稀代の脚本家ダルトン・トランボだ。オスカーを獲った「ローマの休日」や「黒い牝牛」の偽名はまだ良い方で、名前がクレジットされていない作品が山ほどある。果たして歴史は繰り返されるのか。私たちの国で「共謀罪」が成立してしまった今、この映画が問いかけるものが、とても重大なものに思えてならない。

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映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』公式サイト

 

「原爆の子」新藤兼人

ふと、新藤兼人の映画を観よう、と思った。戦前・戦中を生き抜いた日本人が戦後、何を書き、何を描いてきたかを、今、深く知りたいと思ったからだ。検閲を免れるため、自腹を切って制作された本作は、被爆国の人間が世界の人々に「原爆とは何か」を初めて知らしめた作品でもある。公開は1952年8月6日。つまりは被爆から丸7年後のこと。そして、同じ年の春、GHQが日本の占領を終えたことは、決して偶然ではないのだ。

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「月日の残像」山田太一

本編で引用される「私は本を読みつづけることだろう、そして忘れつづけることだろう」というイギリスの作家・ギッシングの言葉。そうだ、過去のほとんどは忘れ去ってしまうけれど、ほんのわずか、記憶に残る過去の断片を、ノスタルジーに浸ることなく、極めて洗練された文章で綴ったエッセイ集。山田太一という人の言葉は、ドラマであれ、小説であれ、エッセイであれ、いつも心に強くひっかかる。

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山田太一 『月日の残像』 | 新潮社