ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「ハングリー・ハーツ」サヴェリオ・コスタンツォ

愛が正しいとは限らない。愛とは狂気であるということは、すでに多くの映画によって表されているし、人間の狂気こそが一番怖ろしいということは、ヒッチコックの映画なんかをみるとよくわかる。この映画が素晴らしいのは、怖ろしくも、美しいということだ。クライマックス。我が子を慈しみ微笑む母親の表情と夕日を背景に海岸で戯れる二人の姿があまりに美しく脳裏から離れない。傑作。

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「ジュリエッタ」ペドロ・アルモドバル

告解。生きていくうちに知らず知らず犯してしまった罪を告白することで神からの赦しを乞うこと。巨匠ペドロ・アルモドバルの最新作は、喪失し、絶望したひとりの女性でもある母親が、告解によって、再生していく物語だ。映画という表現を通じ人生の機微に触れようとするアルモドバル監督の恐るべき感性は健在。例え、悲しみのどん底に突き落とされたとしても、決して人生を諦め、放棄してはならない。

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「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」スティーヴン・フリアーズ

どれだけ無垢な気持ちでひたむきに愛することができるか。心を震わせる表現の決め手となるのは、決して上手い下手でないことをメリル・ストリープが全身全霊で示してくれる。そして、忘れてならないのがヒュー・グラント。ハリウッド黄金時代のスターを彷彿とさせる風貌とユーモア。この映画は彼の圧倒的な天才があってこそ!

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「ブロークン 過去に囚われた男」デヴィッド・ゴードン・グリーン

歳をとると誰もが柔和になるというのは幻想だ。というよりも、囚われる過去が増えることで、より自分の殻に閉じこもり、頑固になっていくことの方が自然なのだ。これはそんな偏屈ジジイをあのアル・パチーノが演じるというあまりに渋すぎる映画。絶望だらけの人生をどう生き抜けばいいのか。それにしても、このデヴィッド・ゴードン・グリーンという人は、独特な感性で、実にユニークな作品を撮る映画監督だ。

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TWA | アル・パチーノ ブロークン 過去に囚われた男

 

 

 

「続・深夜食堂」松岡錠司

松岡錠司という映画監督のすごさをどう伝えればいいだろう。「バタアシ金魚」や「きらきらひかる」など、初期の作品のインパクトは言うまでもないけれど、円熟期にさしかかった現在、この「深夜食堂」シリーズを観ていると、その磨き抜かれた、さりげないセンスに何度も唸らされる。撮るべきものと撮ってはいけないもの。そのことが完璧にわかっている人しかこんな人情喜劇は撮れない。

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