ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「アスファルト」サミュエル・ベンシェトリ

やさしさほど押しつけがましくない、ささやかな親切や、好意のようなもの。それが人の琴線にそっと触れたとき、凝り固まっていた心は解きほぐされ、魂はゆるやかに癒されていく。そんな素敵な瞬間を描いた、慎ましやかなフランス映画。さびれた団地の中で、孤独を抱える人たちが「つながる」この感じ、じわじわといいなぁ。

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映画『アスファルト』公式サイト

 

「イエスタデイ」ペーテル・フリント

誰もがジョンやポールになれると思っていたあの頃。世界中の少年たちが、あのメロディに心を震わせ、あのリズムにシビれていた時代の、ノルウェーのとある高校生の物語。やっぱりビートルズってすごい。モチーフにするだけで、今もなお、映画が1本、簡単に作れちゃうのだ。リアルタイムで聴く「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の衝撃たるや! 想像を絶するなー。で、 改めて「イエスタデイ」の名曲っぷりに度肝を抜かれる。

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映画『イエスタデイ』公式サイト

 

 

「メニルモンタン 2つの秋と3つの冬」セバスチャン・デデベール

ひっさしぶり! ボーイ・ミーツ・ガール(というには少し薹が立っているけれど)、いわゆるフランス映画のテイストたっぷりのラブストーリー。「ブレッソンの映画を見て、君を思い出したんだ」なんて台詞も、画面いっぱいに映しだされるイアン・カーティスの表情も、効果的に使われるミッシェル・デルペッシュのシャンソンも、なんともオシャレで、ちょいとスノッブ。画面に溢れでる詩情も、やや意味不明な展開も、ヌーベルヴァーグを想起させて、なんだか甘酸っぱくも、懐かしい。

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映画『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』公式サイト

 

「健さん」日比遊一

しごく当たり前のことだけど、有名であるからすごいのではなく、すごいからその名が知れ渡るのだ。高倉健という美学。健さんの言葉はなぜこんなにも沁みるのか? 「どんなに大声を出しても、伝わらないものは伝わらない。言葉は少ない方がむしろ、伝わる、という風に思っています」なんて、あの口調で言われると、思わず「健さん!」とつぶやきたくなる。

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映画『健さん』2016年8月20日(土)全国公開

 

「ケンとカズ」小路紘史

すごい。久しぶりに痺れた。ほとんど無名の俳優たちと監督、そして、スタッフでも、脳裏に焼きつき、いつまでも忘れられないものが撮れる。それが映画のすごさなのだ。日々深刻化する覚醒剤の密売。足を踏み入れたら地獄。そこから逃れられない男たちの魂の軋みと叫び。暴力の痛みだけでなく、その奥底にある悲しみを、ひりひりひりひり刻みつけた傑作だった。

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映画『ケンとカズ』公式サイト