忘れられない作品の一つ、長編映画デビューとなった「チチを撮りに」から3年、中野量太監督は、母親の厳しさと優しさ、そして強さ、つまりは愛を、さらに圧倒的な熱量で撮りあげた。杉咲花の存在感も群を抜いているけど、完璧なまでに「お母ちゃん」になっていた宮沢りえはやっぱりすごい女優だ。これはボロボロ泣けたなぁ。圧巻。
冒頭に記される「正しくみれば数学は真理だけでなく究極の美も併せ持つ」というある数学者の言葉。宇宙にまつわる真理を探究するのが物理学であるように、数学を突き詰めれば突き詰めるほど、その「美しさ」に魅せられていくという感覚はなんとなくわかる。数学はロマン。そして、どんな分野でも、ロマンチストだけが未来を切り拓く。
善良な人間の弱さだったり、最低な人間の優しさだったり、一面的ではない人間の、表面には決して表われない、心の奥底にずっと隠されているもの。西川美和監督はそんな人間の複雑な性をあぶりだす天才だ。赦されることのない十字架を背負いながら生きていく。それでもまだ、希望はある、と背中を押してくれる再生の物語。
家族と離ればなれ。それだけで、どんな大義を並べたところで、戦争を正統化することはできない。英雄であろうが、犯罪者であろうが、一生消えることのない心の傷。生きて帰るも、地獄。もう決して元には戻れない。自ら戦場に出向き、命をかけて守り、戦った者ほど、深く傷つき、傷つけられるという不条理が徐々に露わになっていく。さすがのデンマーク映画。
映画『ある戦争』公式サイト 10月8日(土)公開 | トップページ